2024.07.10
技術最前線

三菱電機の金属3Dプリンタ「AZ600」:次世代の製造技術を解説

三菱電機の金属3Dプリンタ「AZ600」:次世代の製造技術を解説

三菱電機の「AZ600」は、ワイヤ・レーザDED(Directed Energy Deposition)方式を採用した金属3Dプリンタであり、その特長と優れた性能により製造業に革命をもたらしています。この記事では、「AZ600」の技術的な詳細とその応用事例を中心に、読者がこの技術の理解を深め、実際に試してみたいと思える内容を提供します。

「AZ600」の基本仕様と技術的特長

1.基本仕様

  項目 仕様
外形 幅 × 奥行 × 高さ 1,600× 2,900 × 2,500
本体質量 7000
軸移動量 X軸 × Y 軸 × Z 軸 600× 600 × 600
B(A)軸(°) ±120
C軸 360
画面 制御装置 三菱電機製CNC
19インチ タッチパネル
工作物 最大寸法(mm) 500×500×500
許容質量(Kg) 500
造形能力値 造形速度 ~300cc/hr(4kW仕様)
造形精度 ±1mm
面あらさ Ra:0.2~1.0mm
必要後処理 切削加工、熱処理

 

2. ワイヤ・レーザDED方式

「AZ600」は、ワイヤとレーザを組み合わせたDED方式を採用しています。この方式は、レーザを熱源として金属ワイヤを溶融させ、積層造形を行う技術です。DED方式の利点として、高速な積層速度と高い材料利用効率が挙げられます。

  • 高速制御:レーザ光の熱エネルギーを正確に制御することで、高速かつ安定した積層造形が可能です。
  • 高効率:市販の溶接ワイヤを使用するため、材料の飛散が少なく、粉末材料に比べて材料の利用効率が高いのが特長です。
  • 高品質:高い緻密度で空孔が少ない造形を実現し、独自の入熱制御技術により高品位な積層造形を可能にしています。

3. 5軸制御とデジタル造形技術

「AZ600」は、世界初の空間同時5軸制御と加工条件を協調制御するデジタル造形技術を備えています。この技術により、複雑な形状の部品も高精度で造形することができます。具体的には、ワークの動きやワイヤの送給、レーザのパワーをCNC内で同時協調制御することで、高信頼の造形を実現しています。

4. ニアネットシェイプ工法

「AZ600」は、3Dプリンタによる造形と切削加工を組み合わせた「ニアネットシェイプ工法」を採用しています。この工法により、最終形状に近い状態まで粗く造形し、その後に切削で仕上げを行います。これにより、従来の切削工法に比べて約80%の加工時間削減と約90%の廃棄材料削減が実現されます。

その他のDED方式の金属3Dプリンターとの比較

その他のDED方式の金属3Dプリンターは、主に下記の3種類に分類されます。

1.ワイヤ・レーザDED

金属ワイヤをレーザで溶融・堆積させる積層造形。AZ600はこのワイヤ・レーザDEDです。

2.粉末・レーザDED

金属粉末をレーザで溶融・堆積させる積層造形

3.ワイヤ・アークDED

金属ワイヤをアーク放電で溶融・堆積させる積層造形

各種類の特徴は下記の表の通りです。

ワイヤ・レーザDED(AZ600) 粉末・レーザDED ワイヤ・アークDED
材料コスト 〇廉価(市販の溶接用ワイヤ) △高価(専用の超微粒金属粉末) 〇廉価(市販の溶接用ワイヤ)
材料品質 〇安定 △要管理(不純物・湿度混入) 〇安定
安全性 〇安全 △粉体爆発、健康への対策必要 〇安全
材料利用率 〇95%以上が造形に寄与 △造形寄与率は60%程度 〇95%以上が造形に寄与
造形速度 〇レーザ出力との関係 〇レーザ出力との関係 〇電源出力との関係
造形制度 △~±1mm(典型値) ~±0.2mm(典型値) ×精度維持が困難
造形品質 〇空孔のない緻密な造形 △造形物中に空孔が生じやすい △熱影響、残留応力が大きい

応用事例と実績

1. 自動車や航空機部品の製造や難削材の造形

「AZ600」は、自動車や航空機の部品製造において、その性能を発揮しています。特に、ニアネットシェイプ工法により、複雑な形状の部品を効率的に製造することが可能です。例えば、プロペラの製造では、従来の切削工法と比較して、廃棄材料を8割削減することができました。

2. 金型補修・TIG溶接の代替

従来、熟練者が手作業で行っていたTIG溶接を「AZ600」により代替することで、省人化が期待されています。ワイヤ・レーザDED方式により、高精度かつ一貫した品質の溶接が可能です。

3. 船舶用プロペラの製造

船舶用プロペラの製造においても、「AZ600」はその性能を発揮しています。従来の切削工法では、多くの材料が廃棄される一方で、ニアネットシェイプ工法により廃棄材料を大幅に削減することが可能です。

DED方式の利点と将来性

DED方式の金属3Dプリンタは、材料効率の向上や製造時間の短縮といった利点があります。また、粉末材料を使用する他の方式に比べて、作業環境がクリーンであり、操作も比較的簡単です。さらに、DED方式は様々な金属材料に対応できるため、幅広い応用が期待されています。

まとめ

三菱電機の「AZ600」は、ワイヤ・レーザDED方式と5軸制御を組み合わせた高度な金属3Dプリンタであり、製造業における様々な課題を解決するための強力なツールです。その高効率な材料利用、優れた造形品質、高速な造形速度により、製造業の未来を切り開く可能性を秘めています。具体的な応用事例や実績を通じて、「AZ600」の実力を実感し、ぜひ一度試してみてください。