放電加工機におけるアーク放電を解説!
こんにちは。
「アーク放電」というワードを形彫放電加工機に携わっているとよく耳にしませんか?
でも正直アーク放電とかアークってなんのことか分からないという方の為に、
今回はアーク放電について解説していきます!
※本記事の参考書籍:機械加工現場診断シリーズ「形彫放電加工」 著者:眞鍋明、葉石雄一郎 発行年:1997年
1.まず形彫放電加工機の加工原理をおさらい
解説する前にまずは形彫放電加工機の加工原理をおさらいしておきます!
形彫放電加工は加工雰囲気が絶縁状態とされています。(加工液は油です)
工作物と電極には加工機電源からパルス電圧が加えられていますが、この時両者に電流はまだ流れていません。
しかし工作物と電極が数ミクロンの距離以下まで近づくと絶縁破壊という現象が起き、「火花放電」が飛びます。
火花放電とは雷のようなものです。
火花放電が発生した1点を中心に電流が流れ込み、エネルギーの高い「アーク柱」へと成長します。
アーク柱の温度は3000度以上なので、その影響を受けた金属は溶けてしまいます。
当然アーク柱周辺に存在する加工液も一気に気化します。
液体が気体になると体積が膨張することになり、爆発現象が起きます。
この爆発の勢いで溶けた金属が吹き飛んでいきます。こうして加工のくぼみができます。
1発の放電が終わったあとに残るくぼみを「単発放電痕」と呼びます。
電源トランジスタをOFFにすることでアーク柱も消失し、吹き飛んだ金属は冷却され加工屑となり流れていきます。
この時、一部の加工屑は流れ去る前に冷却され、加工くぼみの周りに再凝固されます。
この再凝固された部分が次回の火花放電を起こす引き金となります。
上記のサイクルを数千~数万分の1秒という短い時間の中で繰り返すことで、指定の形状に加工していきます。
「放電加工は1発1発の積み重ね」ということです。
このような加工原理なので加工金属の硬度に関係なく、複雑な形状を加工することが形彫放電加工機では可能になります。
2.アーク放電とは
ではアーク放電とは何のことでしょうか?
アーク放電
「アーク放電は、電極に電位差が生じることにより、電極間にある気体に持続的に発生する絶縁破壊(放電)の一種です。」
さっきの火花放電と一緒のような気がしますね。
しかしキーワードは「持続的に発生する絶縁破壊(放電)の一種です。」というところです。
形彫放電加工機はトランジスタ回路を使用して電圧をON、OFFしているため、火花放電も併せてONとOFFされます。
持続的に発生させているわけではないということです。
3.「アークした」ってよく聞くけど
では「アークした」などという言葉をよく耳にしますがどういうことでしょうか?
放電加工が安定している時は放電の火花が電極全面を万篇なく移動していきます。
電極の側面を見ていても、火花が出てくる場所が順次回っていくように見えます。
電極から工作物に向かって四尺玉くらいの大きな花火が打ちあがっているのを想像していただくと良いかもしれません。
しかしこの移動が停滞し、一か所に集中するようになり、放置すると「集中アーク放電」に移行してしまいます。
電極面の一部に加工屑の滞留が起きると、この現象がよく観測されます。
この集中アーク放電が解消されないと、どういうことが起きるでしょうか?
放電が一か所に集中することで、油が分解され、電極と工作物の間にカーボンの柱のようなものが成長します。
この柱を取り除くと工作物に大きな虫歯のようなくぼみができてしまいます。
またこのカーボンの柱を放置すると火災の原因にもなりますので大変危険です。
3.異常なアーク放電を回避するために
こうした異常なアーク放電を回避するために放電加工機のメーカーは電源やジャンプ動作の開発を日々行ってきました。
三菱電機㈱の放電加工の歴史を簡単にまとめてみました!
①昭和40年当初の放電加工機
仕上げ加工時にアーク放電になりやすい傾向にあった。
調べてみると電極のジャンプ動作が重要であることが分かる。
②放電安定回路の開発
自動で極間の電圧を読み取り、適切なジャンプ動作を行わせる制御回路を開発。
③休止幅制御の開発
一般的にトランジスタ回路OFF(休止)を短くすると加工速度は早くなるが、前述した集中アーク放電にも陥りやすい。
こうした現象を回避するために「適応制御オプチマイザ」が開発される。
この適応制御では極間の電圧パルスの状態から集中アーク放電に移行しない範囲で休止幅を縮め、加工速度を向上させる。
④サーボ制御(放電間隙間)の改善
極間の平均加工電圧を検出し、基準目標電圧に近づくように制御する方式が一般的。
しかしこの方式は面粗さや精度にバラツキがでる要因の一つでもあった。
そこから放電パルス幅を一定にする電源を開発。放電開始のタイミングをほぼ一定の範囲に維持させることが可能に。
⑤ファジイ制御の登場
上記の開発から加工性能はグッと上がることに。
しかし電極面積が大きい場合や、加工深さが深い場合などでは不安定になりやすい傾向にあった。
適応制御は電圧パルスの状態のみに依存していたことに着目し、加工が不安定な状態になる前の状態を
より正確に、リアルタイムで検出できるセンサーの開発を行う。
しかしセンサーを開発したからといって安定か不安定かの境界が非常に曖昧であることに変わりはない。
そこで「ファジイ推論」に基づいた解析、各センサーの検出レベルの見定めを行う。
これにより「休止幅」と「ジャンプモード」を①どちらを優先的に変化させるか、②どの程度変化させるか
が判明し採用されたのがファジイ制御である。
簡単ですがこのような歴史があり、昨今の形彫放電加工機ではアーク放電が起きにくく、
安定した加工ができています。
4.まとめ
今回はアーク放電について解説をしました!
色々な制御や回路が出てきて難しかったかもしれませんが、大枠だけでも掴んで貰えたらと思います。
最新の制御はどうなっているの?という方はこちらの記事もぜひ一読ください!
高精度形彫放電加工機 SV-Pシリーズ